第30回あきた全国舞踊祭を見て
山野 博大
舞踊評論家
千葉県
肖像

 あきた全国舞踊祭が30回の節目を迎えた。主催者の秋田県芸術舞踊協会が、1982年に第1回を行って以来、現代舞踊の分野だけのコンクールを欠かさず続けて30年となる。第1回からのグランプリ受賞者の名前を見ていると、そこに日本の現代舞踊の歴史が浮かび上がってくる。

 秋田で舞踊コンクールをやろうと考えたのは、今いっさいを取り仕切っている川村泉さんのお母さんの藤井信子さんだった。彼女は周囲の「うまく行くはずがない」という反対の声を押し切って始めた。当時、舞踊のコンクールとしては、東京新聞と埼玉県舞踊協会のものしかなかった。たしかに始まりの頃は参加者が少なかった。藤井さんは秋田県に近い東北各県や、新潟、福井、石川あたりの舞踊家の知り合いを訪ね、弟子を参加させてくれるように頼んで歩いたということだ。その努力が実り、少しづつ広がって行ったのだ。今では現代舞踊を目指す者にとって「冬の秋田のコンクール」はひとつの大きな目標となっている。

 ここのコンクールは予選なしの一発勝負。にもかかわらず、毎年の参加者の技術水準はひじょうに高い。2日間で審査できる人数がそろったところで募集を打ち切ってしまうということもあるが、応募する人たちは、相当の自信がなければ秋田まで高い交通費を払ってまで行こうとは考えない。そのせいで、この高水準が維持されているのだと思う。秋田までの新幹線代が予選の役割を果たして、ここのコンクールの水準は維持されている。

 今回もすばらしい顔ぶれがそろっていた。特にシニア部門がすごい。第1位になりグランプリにも輝いた『蝉、刻々と』の津田ゆず香は、井上恵美子ダンスカンパニーの中堅クラスのダンサーで、この作品を10月の選抜新人舞踊公演で踊ったばかり。第2位の『狐光』の船木こころもその選抜新人舞踊公演で同じ作品を踊って注目された人だ。第3位の『砂葬』の伊藤由里は内田香のカンパニーの有力メンバーで、一昨年の「あきたコンクール」シニア部門第2位という実力者だ。

 秋田のコンクールには、踊りのうまさに加えて作品の良さで点が決まるという、歴代の審査員が作り上げてきた良き伝統がある。よい作品をみごとに踊りこなさないと、上位に入ることはできない。また採点はすべて公表されるので、審査員がどのような意図のもとに点を入れているかがわかる。審査員がそろって第1位の作品に最高点を入れているわけではない。それぞれに自分の1位があり、それを比較してみるとおもしろい。『蝉、刻々と』に最高点を入れた審査員は3人、『孤光』も3人、『砂葬』が2人というわけで、その差は微妙なものなのだ。それどころか第6位の『夢に棲む女』の小倉藍歌に最高点を入れた審査員が3人もいるのだから、10位ぐらいは逆転の可能性があったと考えてよいだろう。

 ところが小学生以下のジュニア1部、中高生のジュニア2部となると、審査員の点のばらつきがやや小さくなる。年齢の低いところでは、作品の良し悪しのウエイトが減じて、技術と将来性で点を入れる傾向が強まるからではないか。群舞部門は、第1位の『yearning to live』に6人の審査員が最高点を投じていて、さしたる波乱はなかった。また、「あきたこまち賞」には、群舞の『広島の空に向かって歌おう』が入った。この賞はコンクールを裏で支える秋田県芸術舞踊協会のスタッフたちの合議で決まる。今回は、富山県から大群舞を引き連れて参加した和田朝子舞踊研究所の作品を選んだわけで、とても良い選択だったと思う。

 コンクール後のエキシビション公演では、まず各部門の上位に入った作品が披露された。ここでもう一度多くの観客の前で踊れることは、たいへんな励みになるものらしい。緊張感から開放された受賞者たちがのびのびと踊る姿を見ると、私たち審査にあたった者も喜びを分けてもらったような気分になる。またこれは、我々にとってひじょうに良い勉強の機会でもある。いろいろと反省をしながら見ているのだ。

 エキシビションには多くのおもしろい作品が並んだが、中でも第22回の時にグランプリを取った高瀬譜希子のソロ『Atomic Romance』が光っていた。彼女はイギリスでプロとして踊っているだけに、舞台から語りかけてくるものにすばらしい説得力がある。他の柴内啓子作品『姉妹~絆』、川村泉作品『展覧会の絵よりビドロ』、金井桃枝作品『アボジの酒』、平多浩子作品『山桜の詩』、横山慶子作品『夜奏』、昨年度のグランプリ受賞者の斉藤友美恵の『白い吐息』も、それぞれに自分のスタイルを貫いて日本の現代舞踊の多様性を示した。第30回の節目にふさわしい賑やかな舞台となった。

 震災後にもかかわらず参加者は増えたとのことだった。困難を押して出場した被災地からの舞踊家たちそれぞれが、踊れる喜びをからだいっぱいで現わしてくれたことに心から敬意を表したい。


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Update:2017/02/23  

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